麻乃ヨルダの秘密基地

性別が迷子な人の方向性が迷子なブログ。だが男だ。

映画の紹介と解説「マシニスト(The Machinist)」

      2016/09/28



今回は前々からやろうと思っていた映画の紹介&解説をしてきたいと思います。シリーズ化する予定ですが、モチベーション次第。がう。

前半は見てない人向けの紹介、後半は見た人向けの解説をしていきます。当たり前だけど、後半はネタバレ。

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あらすじ

部品工場の作業員として働いているトレバー・レズニック。彼は重度の不眠症に悩まされており、なんと1年も寝ることが出来ずにいる。

そのため日に日に身体はやせ細り、周囲から「これ以上痩せたら死ぬ」「昔と随分変わった」と様子を心配されている。それでもなんとか仕事はこなしていたトレバーだったが、ある日彼の前にアイバンという男が現れる。

スキンヘッドとサングラスが特徴的で、ジョーク好きな謎の男アイバン。彼と出会ってから、トレバーにとって不幸な出来事が次々と巻き起こることに……

紹介

サスペンス系です。主役を務めるクリスチャン・ベールの姿が不気味過ぎて、まるでサイコホラーのような雰囲気を出していますが、注目すべきはそこじゃないぞ!なのに、日本版の予告ムービーはそこばっかり重点を置いていて不眠症男の映画って感じに紹介しているけど、正直予告ムービーとしてはダメダメだと思う。(問題の日本版予告↓)

アイバンとの出会いを契機に自身の生活が壊れていくトレバー。その原因は一体何なのか?誰かが自分を陥れようとしているのか?考えれば考えるほどドツボにハマり、周囲を傷つけ孤独になっていく。そんな彼の狂気を見つめ、共に真実を探るのがこの映画です。

特に注目してほしいのは、尋常じゃない伏線の多さ。殆ど全ての場面がヒントになっていると言っても過言ではありません。1回目は真実にどれだけ近づくことができるか、2回目以降はシーンごとに散りばめられたヒントにどれだけ気づくことができるか、何度でも視聴を楽しめる作品になっています。主人公の愛読書、常に選択を強いる右と左の別れ道、この映画を象徴するアトラクションのシーン……

悲劇的なストーリーなので、面白おかしく見られる作品ではありません。しかし、トレバーを待ち受ける結末と、謎が解かれた解放感は見た人に救いを与えるはず。その意味で、マシニストは間違いなく「面白い」映画です。

制作

ブラッド・アンダーソン(監督)
スコット・ソーサー(脚本)
クリスチャン・ベール/トレバー・レズニック(主演)
ジェニファー・ジェイソン・リー/スティービー
アイタナ・サンチェス・ヒホン/マリア
ジョン・シャリアン/アイバン

解説

視聴済み前提のネタバレ解説。有名な映画なんで、解説してるサイトなんていくらでもあるんだけど、自分用のまとめとしてもちゃんとやっておく。とにかくこの映画は伏線だらけというか、ほぼ全てのシーンがネタになっていると言っても過言じゃない。2週目以降見るときは、どれだけ制作側からの「ヒント」に気付けるかもこの映画のお楽しみ。

では、映画のストーリーを追いながら数々の伏線・ネタを見ていきましょう。あまりにもネタの頻度が高いのですごい長さになってしまいましたが、時間のある方は読んでくださいませ。

いかにも怪しい鶏ガラ男

冒頭のシーンでは、トレバーがカーペットをぐるぐる巻いています。そして、くるまれるカーペットから人の足のようなものが見えています。この段階で、初見の人に「この主人公はヤバそうな奴だ」とイメージを植え付けることに成功していますね。病的なルックスも相まって、非常に不気味。

一服したトレバーはトラックに乗って海岸に。カーペットごとブツを海に捨てたいんだけど、カーペットから中身が出てしまった!?そしてライトを持った誰かに見つかって……という冒頭の流れ。

そして家に帰ってトレバーが手を洗うシーンに入って、意味深に大写しになる黄色いライト。更に、冷蔵庫に貼られた「WHO ARE YOU?」と書かれた附箋……冒頭シーンはまた後で出てくるので解説は飛ばしますが、色々と想像がかき立てられる数分間ですね。
時系列的に、本編のスタートはここから。いきなり濡れ場です。しかし、楽しい時間のはずなのに辛そうなトレバーというかクリスチャン・ベール(笑)。こんな身体じゃ楽しめるもんも楽しめなさそう。

「それ以上痩せたら死ぬわ」と言う娼婦のスティービーに、鶏ガラのマネをしておどけて見せるトレバー。トレバーが冗談好きな人間なのも、伏線になってますね。料理を作ってあげようとするスティービーですが、トレバーは「疲れてるから」と断って自宅へ帰ります。

所変わって工場のシーン。口煩いタッカー主任が機械の調整をしているミラーに食ってかかりますが、トレバーが助け舟を出します。口が達者なトレバー。ロッカールームでも「最近付き合いが悪い」と仲間になじられますが、冗談で上手くかわします。話の節でレイノルズが「今は女の方を好むということさ」と言っていましたが、これは友人だった者としての言葉でしょうね。

カップに入ったコーヒーがアップになって、空港のシーン。コーヒーを見つめながらウトウトしているトレバー。そこにウェイトレスのマリアが話しかけてきます。トレバーに優しい言葉をかけ続けるマリア。妄想の人物であるマリアは、トレバーにとって耳障りの良いことしか言わない都合が良い人物ですが、初見ではただの優しい女性にしか見えません。このシーンで違和感を与えるのは、1時30分から動かない時計くらい。でも、それだけではまだ状況が掴めない。トレバーはマリアが出してくれたケーキを食べることなく、夜の空港を後にします。

トレバーの世界を作るドストエフスキー

家に帰ってもウトウトしているトレバー。地獄のような不眠を味わっています。そんな彼が愛読していたのはドストエフスキーの「THE IDIOT(白痴)」。わざわざアップで映されるのも意味があります。白痴というのは、トレバー自身のことでもあるでしょう。自分の罪から逃れようと妄想の世界に逃げる、「世間知らずのおバカさん」という意味で。

また、ドストエフスキー作品をトレバーが愛読しているのも重要なポイントで、彼の妄想が生み出したマリア、ニコラス、アイバン(ロシア語だとマリヤ、ニコライ、イヴァン)という名前のキャラクターは、ドストエフスキー小説の登場人物でも出てきます(制作側は「白痴」以外にも、「罪と罰」や「分身」も作品づくりに影響を与えたと言っているようで)。作品を読んだトレバーが、無意識に小説から名前を引用したんでしょうね(劇中で被害者家族の名前をトレバーが知った・調べた形跡はないですし)。トレバーの願いを叶えてくれるマリアとニコラスが、キリスト教の聖者と同じ名前なのも意味深。

話を次のシーンに。体重計に乗ってその日の体重をメモするトレバー。また、漂白剤が無くなったのでメモを冷蔵庫に貼りつけています。事あるごとにメモを残しておく習慣があるようです。この家にはトレバー以外に出入りする人間はいないのですが、メモが無くなったり知らないメモが現れたりの怪奇現象に襲われることに。まぁ、全部トレバーの仕業ですけど。

アイバンとの出会い、崩壊の始まり

工場で仕事をしていると、工場長に呼び出されるトレバー。あまりにもやせ細っているので、ドラッグ中毒の疑惑をかけられてイライラ。煙草を吸おうとしますが、ライターも付かず。しょうがないので車についているシガレットライターで火をつけることに。しかし、シガレットライターを見て一瞬硬直するトレバー。この時点では事故の記憶を心の奥に追いやっているはずですが、深層意識で反応してしまった様子。

シガレットライターの準備を待っていると、横から誰かが話しかけてくる。アイバン登場。妄想が作り上げた「もう一人のトレバー」とあって、伏線の塊のような男です。「レイノルズの代わりに工場で働いてる。あいつは警察に捕まった」と語るところも、トレバーの中にある罪の意識が滲み出ていますね。

仕事が終わったトレバーはスティービーの家に。「不眠で1年間寝ていない」と告白。最初は冗談だろうと笑っていたスティービーも、トレバーのリアクションと身体を見て真実だと気付く。こんな身体を見せられちゃ信じるしかない。別れた夫の話が出てきますが、マリアのキャラクター形成にも関わるセリフですね。

続く工場のシーンで、機械の調整をするミラーを手伝うトレバー。しかし、奥で働いているアイバンの様子が気になる様子。目が合ったアイバンはなんと、トレバーに首切りのジェスチャー。動揺したトレバーは機械のスイッチを押してしまい、ミラーをとんでもない事故に巻き込んでしまいます。あー、やだやだ。僕は毎回このシーンは飛ばしています……グロいの嫌いなんよ。
家に帰ると急いで手を洗うトレバー。他の手を洗うシーンでもそうですが、よく見ると普通の石鹸ではなく漂白剤なんですよね。「汚れた手(色んな意味で)をできるだけ綺麗にしたい」という強迫観念ゆえに。ここら辺のトレバーの心理状態は小説版で描写があります。

ご飯を食べて、公共料金の請求書に目を通すトレバー。公共料金を忘れず払わなくてはとメモを書いて残そうとしますが、冷蔵庫には見知らぬメモが。書いてあったのは「ハングマンゲーム」。中学生の時、英語の授業でやりました。相手の考えた単語をアルファベットで1文字ずつ答え、間違えるごとに棒人間の絵が作られていくので、首吊りになった棒人間の絵が作られる前に正解の単語を導きださなければいけないゲームです。

自分で書いた覚えはないので「誰かが自分の家に忍び込んでイタズラした?」と考えるトレバーですが、出題者はトレバー自身ですね(意識外のトレバー、アイバンかな?)。真実から目を逸らしたがる自分自身へのゲームが始まりました。このハングマンゲームの正解は、本当は知っている。でも、答えを書くということは認めたくない事実を認めるということ。罪の意識と向き合い、妄想を止められるか。この作品の根幹となる部分ですね。

WHO ARE YOU?

次の日、工場で事故の内容について聞かれるトレバーは「アイバンに気を取られて」と語りますが、その場にいた関係者は「アイバンなんてこの工場にはいないぞ」と言われてしまいます。そして、捕まったと聞いていたはずのレイノルズが普段通り作業をしています。混乱していくトレバー。周囲の人間との溝も着実に深まりつつあります。

車での帰り道、トレバーはシガレットライターに気を取られて事故を起こしかけます。そして、交差点の真ん中で車を止めてしまいます。シガレットライターが彼の記憶のスイッチになっているようですね。妄想スイッチとも言える。

夜は日課である空港でコーヒーなトレバー。交差点の場面からマリアが映る場面にシフトするのが、結末を知っているとなんとも。なんで空港に行きたがるのは、トレバーにとって「空港=逃げ場」だから。いざとなったら高飛びもできるし。でも、本気で逃げる選択ができない良心が残っているからこそ、トレバーは苦悩している。だから、空港でマリアと話したり、娼婦のスティービーと会って「一時の逃避」をしているのだ。特にマリアと過ごしているときは、現実だと不健康なトレバーがいつになく元気に見えるのが切ない。

追われるジョークの話などをしつつ(マリアにも「Who are you?」って言われてましたね)、二人の話題は「母の日」に。ここでトレバーは既に母が死んでいることを告げ、マリアは息子と遊園地に行くことを話します。マリアは「お墓参りが終わったらあなたも遊園地へ」と誘い、トレバーは快く了承します。相変わらず1時30分から進まない時計を横目に見つつ。

全てお前のせいだ

次の日工場に来ると、周囲から白い目を向けられていることに気付くトレバー。ロッカールームでは同僚からハッキリ「お前とは働きたくない」と言われてしまいます。あんな事故もあったし、最近どんどん様子がおかしくなっているので当然といえば当然。誰も第2のミラーにはなりたくありませんから。かつて仲良かったはずのレイノルズも黙って俯き、トレバーを擁護することはありませんでした(仲が良かったからこそ、その場の空気に否定も肯定もしなかったとも言える)。

仕事を終えて車に乗ろうとしたトレバーは、アイバンの車が駐車場から出ていくところを見かけます。思えばあいつと出会ってから何かがおかしくなったと、急いで追いかけます。交差点で止まった時、アイバンに「話がある」と言うと、彼は「ついて来い」と言って車を発進させます。思いっきり赤信号ですけど。焦るトレバーは自分も信号を無視してアイバンについていきます。現実と妄想の区別がついていません。トレバーのトラックが交差点通ったところで、背景に事故現場で見た逆三角形の建物が映るのも印象的。

その後ちゃんと追いつけたのか、バーでトレバーとアイバンが会話。以前のトレバーのように調子良く冗談をかましていることや、ミラーと同じように「事故で障害を負っている」という設定も、自身の記憶によってつくられた存在であることを示唆しています。ただ、同じ妄想の産物であるマリアとニコラスが「現実から目を逸らさせてくれる存在」であるのに対し、アイバンは「現実に目を向けさせる存在」になっています。トレバーがアイバンに向かって「お前のせいで事故が起きた」と言うと、アイバンは「お前が起こした事故だ」と言ってのけるのも、それを象徴しています。これはミラーの件だけでなく、轢き逃げの件に対しての言葉でもありますね。別の何かのせいにしようとしても、自分が犯した罪は変わらない。

トイレに行ったアイバンは財布を置いていったので、こっそり中身を漁るトレバー。こらっ。彼の目に飛び込んだのは一つの写真。その写真を持ち帰り、アイバンと共に映っていた男に電話をかけるトレバー。その相手とはレイノルズ。アイバンと共に釣りをしている写真で、でっかいマグロを持っています。「レイノルズが自分に嫌がらせをしている」と勝手に結論付けて満足するトレバーですが、冷蔵庫を見に行くと驚きの事態が。なんと、何もしていないはずのハングマンゲームが何者かによって進められていたのです。気味が悪くなり、ハングマンゲームのメモを捨てスティービーの家に。

客を相手にしている最中のスティービーでしたが、必死の形相をするトレバーを優先し、家に入れてくれることに。トレバーが彼女を唯一信頼できる人間と思っているように、スティービーもトレバーのことが大事な存在なのです。それだけに、あとの展開が辛いなぁ……

スティービーに話をしている途中、ハングマンゲームに書かれたERがタッカー主任のERではないかと考えるトレバー。思い悩むトレバーにスティービーが「仕事のことが心配なの?」と聞くと、「別にクビになっても構わない」と答える。「なら何が心配なの?」と聞かれると、「自分でも分からない」と。真実を頭の片隅に追いやっている。そして、コーヒーがアップになり、遊園地のシーンへ。

地獄への道

マリアとその息子ニコラスと一緒に遊園地。トレバーがニコラスにアイスを買ってあげるのは、事故の時に男の子がアイスを落としたところを轢いてしまったところからきたイメージですね。アイスを渡すときに一言「どうぞご希望どおり」と言うのも印象深い。アイスを買うことで過去の過ちを正せるなら、どんなに良いことか……

メリーゴーランドをバックに写真を親子の写真を撮ろうとすると、お母さんとの思い出が蘇るトレバー。そして、マリアの元に別れた夫からの着信が。マリアがトレバーの記憶から作られていることを示すシーンですね。写真は母との思い出、着信はスティービーとの会話から。マリアが電話している間、ニコラスの面倒を見ることに。

そして、この映画の全てを表すと言ってもいいアトラクション、ルート666へ。666はそのまんま悪魔の数字でとっても不吉。また、左の看板「ROUTE 66」の66の間にスプレーで6が書き足されているというのも、記憶の上書きとか色んなことを想像させてくれますね。

悪趣味の宝箱のようなルート666で最初に目を引くのは、切り取られた腕を持つインディアンのオブジェ。あからさまにミラーの事故を連想させています。お次は、墓に花を手向ける女性のオブジェが。トレバーの中にある「被害者の女性」のイメージが具現化したものでしょう。さらに、その先には首吊り男の遺体。横には「GUILTY(有罪)」の文字。「自分はこうなるべきだ」というイメージです。それだけ、事故のことは彼にとって十字架になっているわけですね。

次はモーテル。性行為をする男女の姿は、スティービーとの快楽に浸って心の傷を忘れようとする自らの投影。モーテルを過ぎると交通指導員が現れ、トレバーたちが乗るカートは飛び出した子供を跳ねてしまいます。そして、事故を起こして炎上する車と、事故で轢かれた遺体のオブジェが。乗っているカートもオブジェの車もちゃんと赤い車なのがいいですね。

アトラクションで深層意識の世界を体験した後は、二本の別れ道が。右は天国、左は地獄に続いているようです。トレバーは右へ行くよう促しますが、ニコラスが向かったのは左。その地獄への道では、トレバーの脳裏を事故の記憶が駆け巡ります。事故の時にかけていたサングラス、車のメーター、赤い信号……そして、ニコラスは白目を向いて意識を失ってしまいます。

優しき母マリア

急いでトレバーがニコラスを外に連れ出すと、マリアが駆け寄ってきます。そのとき一瞬、事件の時の光景が。焦るトレバーに対し、マリアは「癲癇なの。意識は戻るわ」と言って落ち着いて処置。大事には至りませんでした。これは、「あの男の子が倒れたのは事故ではなく癲癇のせいだし、死んでもいない」と記憶を上書きするための妄想。この後にトレバーが車中で「僕がアトラクションに乗せたせいだ」と謝ると、マリアが「違うわ、あなたのせいじゃない」と言うのが、アイバンの言葉とは対照的ですね。事故は自分のせいじゃないと自分に言い聞かせて、心の安定を保とうとしている。

ニコラスのことで落ち込むトレバーを、マリアが家に誘ってくれます。部屋は女性的な温かい雰囲気で、レコードプレイヤー、ガラスボール、壁の近くに立っている人形が目を引きます。そして、時計は1時30分を指しています。マリアと居る時間は常にあの事故が起きた時間=1時30分です。現実の世界ではありえないことですが、夢を見ているときは夢に気付かないように、トレバーもこの世界が現実でないことまでは気づいていません。

ガラスボールを手に取って、見覚えが有るような無いようなと見つめていたところに、マリアがやってきます。二人でワインを飲みながらお話し。話に出てくる「楽しい時間を買う」という部分は、スティービーとの記憶が混ざっているところですね。現実では娼婦であるスティービーを買うことで男女の時間を楽しんでいるので、そのイメージでしょう。

マリアがグラスのワインを飲み干したので、彼女の代わりにワインを注ぎに行くトレバー。途中の廊下でまたしても見覚えのある光景に足を止めます。実はこのマリアの家、現実のトレバーの家と同じ家なんですよね。家具の配置は違いますが、キッチンの間取りや台所のレイアウトなどがそのまんま。照明の違いでこうも印象が変わりますか。よくよく見ると、壁に魚の絵が掛けられてあったり、冷蔵庫に指が赤くなった手の絵が貼られていたり、トレバーの記憶から構成されている要素が見え隠れ。

マリアの家の冷蔵庫に貼られていた、母の日についてと親子の棒人間が書かれたカードが目に入ったトレバー。家に帰って、ゴミ箱からハングマンゲームのメモを取り出します。ピンと来たトレバーは「mothER」と鉛筆で書き記します。正解ではないですが、少しずつ自分の本当の記憶に迫っています。

棚から母との思い出のアルバムを引っ張り出すとレバ―ですが、このシーンもよく見ると釣り竿が映っていますね。釣りに関するヒントだらけ。アルバムをめくると、最初に出てくるのは赤いカートに乗った小さいころの写真。つくづく赤い車に縁がある。ページを進めると、遊園地で撮ったマリアとニコラスの写真にそっくりな一枚が。ご丁寧に、タイトルに母の日と書かれています。過去の思い出との奇妙なまでの一致を不思議がるトレバ―ですが正解はまだまだ先。

壊れた生活

工場に行くと、いつもと違う旋盤の仕事を任されるトレバー。アイバンが指を無くしたと言っていたのも旋盤で、観客もトレバーもドギマギな展開。機械の調整をしていると、退職の手続きをしていたらしいミラーが出てきます。罪悪感でいっぱいのトレバーは、「左腕をくれ」と言うミラーの冗談をまともに受け取れません。「恨んでいない」という言葉に対しても疑心暗鬼。

気を取り直して機械の調整をしていると、突然機械が動き出してしまいます。右腕が巻き込まれて抜けなくなり、必死に助けを求めるトレバー。何とか自力で機械を止め、仲間に服の袖を切ってもらって脱出するトレバーでしたが、抱え込んでいた疑いの心が爆発。助けに来てくれたはずの同僚たちに当たり散らし、仕事を首に。レイノルズにも「バカげた妄想はもうよせ」と言われてしまいます。

家に帰ったトレバーは無くしてしまったアイバンとレイノルズの写真を探しますが、見つからない。しかも、電気代を払うのを忘れていたために、電気が通らなくなってしまいました(大家に家賃を払いに行った日、ハングマンゲームのメモに気を取られて、公共料金のメモを貼り忘れていましたね)。追い詰められたトレバーは、手がかりを探すべくアイバンと会ったバー「BOILER ROOM」へ(すごい名前だ)。酒を飲むスキンヘッドの男を見かけますが、知らない別人。トイレに行っても娼婦と遊んでいる男を見かけただけで、情報は何も得られず。

気落ちしたトレバーはスティービーの家に行きますが、スティービーの顔には大きな痣が。客の男に殴られたようです。傷ついた者同士慰め合う二人。トレバーは、一緒になりたいことを伝えてきたスティービーの気持ちに応えます。彼女との繋がりが、トレバーにとって唯一現実で幸せを掴む手立てでしたが……

お家に帰ると、電気が無いので携帯型のランプに頼っている状態。ひもじい。すると、玄関から誰かが鍵を開ける音が。謎のメモのこともあり、泥棒か何かかと警戒するトレバーでしたが、正体は大家さん。この部屋から水漏れと変な臭いがしていると言う大家さん。トレバーはそんなことないと大家さんを追い返しますが、冷蔵庫の方から赤い血のような液体がダラダラと垂れていました。怖すぎる。そして、冷蔵庫に貼られたハングマンゲームがまた進んでいる。今度はmILLERと答えを書くトレバ―。夜が明けたらミラーに会いへ行くことに。

自分を映す鏡

再会したミラーはご機嫌でトレバーと会話。しかし、彼の奥さんはトレバーが事故の犯人だと分かると露骨に渋い顔。嫌な空気が流れているので、二人きりで話をすることに。ガレージで新しい愛車の自慢をするミラーに、トレバーは自身の妄想をぶつけます。一方的にミラーを一連の奇妙な現象の犯人に仕立て上げていきます。ここで出てくる「冗談を言っていても本当は恨んでいるんだ」という言葉は、轢き逃げ事故も含めて「自分は他人に恨まれても仕方のない人間」だと考える、罪悪感と自己評価の低さから出たもの。他人が何を言おうと、自分は罪を許される人間ではないと思っているのです。勝手に激昂するトレバーを最初は笑って許そうとしたミラーですが、流石に堪忍袋の緒が切れて金的を一発。トレバーはすごすごと退散することに。

自分の車に戻っていくトレバーでしたが、目線の先にはアイバンの車が。勿論、アイバンはトレバーにだけ見えている幻覚なので、ミラーとアイバンを交互に見て慌てるトレバーを、訝しげに見ているミラー。何が何だか分からないだろうなぁ。

急いでアイバンを追いかけるトレバー、事故があった交差点で信号無視をしてでもアイバンの車を追っていきます。そして、郊外のトンネルまでやってくるトレバー。アイバンの車のナンバー「743CRN」を必死に覚えます。しかし、アイバンの車のナンバーと助手席に乗っている誰かに気を取られて、対向車線にはみ出してしまいます。対向車を寸でのところで避けますが、その際にトラックがエンスト。アイバンを逃がしてしまいます。実はここで一瞬映るトラックのナンバーを見てみると、「NRC347」と書かれています。アイバンの車のナンバーを逆にしただけ。これまたアイバンとトレバーが同一人物であるヒントですが、最初にこれは気づけないよなぁ。

逃げることしかできない

ナンバーを暗記したトレバーはDMV(アメリカの各州に設置されている車両を所轄する機関、日本における地方運輸局)に。なんとか車両の持ち主についての情報を探ろうとしますが、まともに相手されません。担当者との会話から「轢き逃げされればいい」と無茶苦茶な答えを出したトレバーは、まさかの当たり屋と化す。そんなトレバーを轢いた車に乗っていたのが女性と赤ちゃんの親子二人なのも因果でしょうか。そして、「釣りをしていたい」と書かれたステッカーがアップに。以前のトレバーは友人とそんな日々を楽しんでいたはずだったのに。

車に轢かれてボロボロのトレバーは足を引きずりながらも警察署に。この身体で怪我までしてると、どっからどう見てもゾンビだ。窓口に居た警官はトレバーの姿にドン引きしながら「あちらで記入してください」と書類を渡す。どうしていいか分からない感じがなんだかかわいい。

書類に記入されていく情報は、結末を知っていると被害者のものではなく加害者のものに見えてくる。この事件のことを書いているのかあの事件のことを書いているのか、どちらともとれるような内容。書類を書いて待っていたトレバーの元に警官がやってくるが、彼の口からは信じられない情報が。なんと「743CRN」の車、赤のポンティアックはトレバー自身の車だと言うのだ。話によると、1年前に事故で廃車にしているらしい。

混乱するトレバー、「事情を説明してください」と言う警官を振り切り署内から脱走。この全力ダッシュのシーンでクリスチャン・ベールは本気で死を覚悟したそう。無理もない。追い詰められたトレバーは、地下の用水路を通って逃げる。その先にあったのは二つに分かれた道。まるでルート666と同じような、明るい右の道と暗い左の道。右の道からは人影が見え、捕まることを恐れたトレバーは左の道から逃げていく。逃げ道はやっぱり左。

何とか逃げきったトレバーですが、自宅マンションに来てみると警察の姿が。書類に書かれていた住所を見てやってきたのでしょう。これはまずいとスティービーの元へ行くトレバー。この時もちゃんと「左の道」を選んで逃げているのが良いですね。

誰も助けてくれない

トレバーは心も身体も限界で、スティービーの姿を見た瞬間に倒れ込んでしまいます。疲れ切ったトレバーをお風呂に入れてあげるスティービー。原因が轢き逃げだと知ったスティービーが「轢き逃げ犯なんて絞首刑にすればいいのよ」と言うと、原因は自分のせいにあると語るトレバー。当たり屋をしてしまったことを隠したかった、ルート666のことが頭に過ぎった、無意識に自分の罪を意識したとか、色んな意味で捉えられる会話ですね。

良い雰囲気になった二人でしたが、部屋に飾られていたレイノルズとアイバンの写真を見て豹変するトレバー。直前に他の男(客)の服が置いてあったのを見つけたこともあって、「スティービーもグルなのか」と決めつけて怒り狂う。写真のことを問いただすトレバーでしたが、「写真に写っているのはあなたじゃない」と言われてしまう。さらに混乱するトレバー。そして二人の関係は破綻してしまいます。トレバーはスティービーの言っていた「別れた亭主」がアイバンのことだったと解釈して、困難な現実に折り合いをつけようとします。

スティービーも頼りにできなくなり、向かったのは空港。最後の頼みであるマリアに会いに行きますが、そのマリアではなく別の女性が接客にきました。なぜマリアではないのか聞くと、「元からそんな人はいない」と言われてしまいます。アイバンと同じく、「存在しない人間」だと。彼女が言うには、トレバーは毎晩同じ席に座ってコーヒーを見つめるだけだったと。何も信じられなくなったトレバーは、またしても周囲に当たり散らして逃げる。壁に張られた広告には「Escape!」の文字が……

アイバンとの決着

現実と妄想の境界線がいよいよおかしくなったトレバー、駐車場で見つけたアイバンの車を追いかけていきます。着いた先はトレバーが住んでいるマンション。ここでトラックを止めるときに一瞬、「NICE TRIP!」と書かれている壁が映るのが面白い。アイバンがマンションに入っていきますが、一緒に居たのはニコラス。アイバンの車にずっと乗っていたのはニコラスだったのだ。急いで追いかけるトレバー。

自分の部屋のバスルームで髭を剃っていたアイバン。ニコラスをどうしたのかと聞かれると、「見れば分かるだろ?」とおどけてみせる。髭剃りに使っているナイフが嫌な妄想を助長する。トレバーは怒ってアイバンに掴みかかり、ナイフで喉元を切ってしまいます。そして、意味ありげにカーテンが掛かっていた浴槽を見てみますが、そこにニコラスは居ない。

次にトレバーが向かったのは、冷蔵庫。冷凍庫の方から得体の知れない液体が流れ落ちていた冷蔵庫。まさかニコラスが(冷蔵庫から水漏れした時を考えると、時系列的にありえないけど)……しかし、そこから出てきたのは解体されたマグロ。電気が通らなくなったので、凍っていたマグロが溶けて腐っていたのでした。ここでまた記憶がフラッシュバック、レイノルズの写真に写っていたのは自分自身ではなかったかと感付きます。冷凍庫から出てきたマグロは、彼と釣りに行った時の物だと判明するのです。物語はいよいよクライマックスに。

アイバンの遺体をカーペットで包み、再び冒頭のシーンに。カーペットが広まってしまいますが、なんと中身は何もなかった。そして、ライトを持って話しかけてきたのはナイフで切ったはずのアイバンでした。何が何だか分からないトレバー。家に帰って「WHO ARE YOU?」と書かれたメモを見ます。そして、鏡に向かって自問自答。「俺が誰だか分かっているぞ」と……

もう逃げない

ここでネタバラシ、真実が明かされます。トレバーは1年前に轢き逃げ事故を起こしており、その事実から逃げるため妄想の世界に没頭していたのでした。時刻は1時30分、サングラスをかけて赤のポンティアックを飛ばしていたトレバーは、シガレットライターに気を取られて信号無視、男の子を轢いてしまった。その時、車内にはROUTE66のキーホルダーがぶら下がっていた。駆け寄る母親と周りにいた人々。トレバーは自分のしたことが恐ろしくなり逃げてしまいました。ここから、彼の逃げ続ける生活が始まったのでした。

以前のトレバーは釣りが趣味の明るい男で、容姿ももちろん普通でした。しかし、罪の意識に苛まれ眠れぬ夜を過ごし続けたトレバーは変わり果ててしまいます。そして、マリアとニコラスという架空の人物を作り上げました。被害者家族と同じ容姿の彼女たちを「自分を許してくれる存在」として登場させることで、自分の犯した罪から逃げようとしていたのです。しかし、それは「自分は決して許されない」という意識の裏返し。ルート666で「有罪」とされていた人形の姿や、自分から自分に宛てたハングマンゲームを思い浮かべれば、「本当は死んで償わなければいけない」とまで考えていたことが分かります。

そこで、トレバーはもう一人の人物、アイバンを作り上げます。彼は監視者であり、逃げ続けるトレバーを導く存在でもあります。証拠隠滅をしようとしたトレバーをライトで照らしていたシーンは、彼の役割を端的に示しています。アイバンはトレバーが逃げることを良しとはしません。しかし、真実を強く訴えることもしません。現実に目覚め、罪と向き合うのはトレバー本人がやらなければいけないことです。アイバンは「相棒」にヒントを与え続けたのです。

真実を思い出し、すすり泣くトレバー。目を逸らし続けていた現実に、ついにたどり着きました。そして、自らの始めたゲームを終わらせることに。これまで、ハングマンゲームは間違えても答えを消せる鉛筆で書き進めていましたが、最後はマジックで答えを書き記します。本当の答えはもう分かっているから。先頭にKを書いて、「KILLER」の文字が完成しました。彼は罪を認めることができたのです。誰のせいでもない、自分のせいだと。

出頭することを決めたトレバーは、部屋の荷物をまとめました。マリアの家で見たレコードプレーヤー、人形、ガラスボールが映り、彼女との時間が妄想であったことを明確にしています。ガラスボールが母の形見であったことも、しっかり思い出したようです。

アイバンとのドライブ、彼はまた分岐点に遭遇します。左は空港、右はダウンタウンへ繋がる道。今までのトレバーは常に左の道を選び、逃げてきました。しかし、逃げ道は彼を幸せにすることなく、罪の重しに人生を縛られる地獄の道でした。トレバーはついに右の道を選び、逃げることを止めたのです。

一度は「轢き逃げをされた」と言うために来た警察署に、今度は「轢き逃げをした」としてやってきたトレバー。一面が白一色の留置場は今の彼の心そのもの。彼が居た自宅は常に無機質で暗い場所だったのが、罪を認めた後の朝は明るく照らされ、留置場は真っ白。マリアの部屋は幻想的な雰囲気でしたし、精神状態によって分かりやすく彼の居場所が演出されていましたね。

真実を認めたトレバーは、ようやく安心して眠りにつくことができます。これから先は困難なことだらけでしょうが、一先ず最大の壁を乗り越えることができたのです。過ちこそ犯してしまいましたが、彼は根っからの悪人ではありません。ただ、一歩踏み外してしまったのです。そこから起き上がるのにとても長い時間がかかりました。その間に不幸にしてしまった人たちもいます。しかし、良心を取り戻すことができたのです。彼はこの先、逃げることなく現実に立ち向かえるはずです。

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